【ブラスタ】BLACKSTAR~Theater Starless~ 曲 解説メモ

ブラスタの公演楽曲、演目の原典等について調べたことを書いています。

Trick or Truth


【原典/翻案】
萩原朔太郎作
小説「猫町」


【あらすじ】
現実の旅に魅力を感じなくなっていた私は、モルヒネやコカインといった麻薬の力を借りた夢の中での旅に魅了されていた。その旅では見るもの全てが色鮮やかで醒めても忘れがたく、現実の世界で錯覚を引き起こしたりもした。
そして、薬物によって奪われた体力を回復するため、毎日決まった道を散歩するようにしていたが、その日は通ったことのない道へ入ってしまった。私は方向音痴であり、当て推量で家に向かって歩いたが、見慣れない美しい町へ辿り着いた。自宅の徒歩圏内に、こんな町があっただろうかと訝しむが、しばらくして、見慣れた町並みを反対の方角から見ただけだと気づいた。視線の方角を換えることで別の面を見せる、それだけのことが町を新しい物に見せたのだ。
これから語る話は、私が現実に経験した真実だ。しかし、聞く側がその実在性を仮想し得なければ、薬物中毒の詩人の幻覚話となるだろう。

北越地方の温泉宿に滞留していた私は、少し離れた小さな町へ鉄道に乗って出かけることを楽しみとしていた。楽しみの目的は風光明媚な沿線の景色だ。
ある日、鉄道を途中下車し見晴しのよい峠道を歩いて町へ向かうことにした。しかし、思惟に耽りながら歩いていたため、道標にしていた鉄道のレールを見失ってしまった。
ようやく細い山道を発見し、麓を目指して山を下りると、田舎の麓に似合わない人通りの多い美しい町があった。町には人出が多かった。しかし物音がなく静まりかえっていて、不安になった私は、漠然とした恐怖を感じた。
すると、小さな黒い鼠のような動物が町の真ん中を走って行き、その一瞬の後に人があふれていた町の通りから人が消え、代わりに猫の大群が歩いていた。私は幻影を見ているのか、そうでなければ気が狂ってしまったのだ。
私は目を閉じ静かに心を落ち着けると、再度目を開いた。すると猫の姿は消えて、よく知る田舎町が目の前にあった。愚かにも私は、また例の知覚の疾病に冒されたのだった。一般的に言うところの「狐に化かされた」のである。

話はこれで終わりだが、私の疑問は新しく始まる。自分が現実と思っているのは、はたして本当に現実なのか。夢だと思っているものは、本当に夢なのだろうか。この謎は、おそらく誰にも解けないだろう。
今でも私の記憶には、あの奇怪な猫町の光景がありありと残っている。人に何と言われようとも、私がそれを「見た」という事実は変わらない。私は信じている。猫の精霊ばかりの住んでいる町が、この宇宙のどこかに必ず実在しているということを。


【青空文庫】
萩原朔太郎 猫町 散文詩風な小説


【PV】
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